Pilates · Yoga · Movement

コラム

マタニティヨガ、グループレッスンにリスクがある理由 — マンツーマンをすすめるわけ(第3部)

「妊娠中は気をつけなきゃ。運動は産んでから」

特に体外受精や人工授精を経た場合、妊娠中の運動を避けるケースが多くありました。しかし、産婦人科学の結論は正反対です。主治医が運動してもよいと言った場合、あるいはもともと運動をしていた方が妊娠した場合、運動は控えるべきものではなく、推奨されるものです。どんな運動をどのように行うかによって、妊娠中と産後の運動効果は大きく変わります。ストレッチのためにマタニティヨガを選ぶ方は多いのですが、グループレッスンという形には思った以上に限界があります。

私もデパートのカルチャーセンターで、妊娠前の方向けのピラティスやヨガを教えていました。そのとき感じたのは、参加者のコンディションが本当にさまざまで、全員が無理なくできるのは軽いストレッチ程度だったということです。ときには運動が得意な方に追加の運動をすすめたり、グループレッスンについていくのも難しい方には、そっと個人レッスンをおすすめしたりしていました。

女性の出産と子育ての過程を運動がどう支えるかによって、その後の回復は大きく変わります。老後まで含めた生活の質も大きく左右します。

妊娠中の体力づくりが大切な理由

妊娠は40週にわたる持久系の競技です。体重は10kg前後増え、心拍数と血液量が増加し、妊娠後期の3か月は重くなった体で睡眠も足りないまま、赤ちゃんと一緒に出産を待ちます。出産が近づくにつれて体の苦しさは増し、赤ちゃんもその不快さを一緒に味わいます。そして出産の瞬間には、たいへんな体力が必要です。産後の回復でも、運動をしていた方としていなかった方の差ははっきりしています。

私が語れるのは何年か運動を指導してきた現場の経験だけですが、自分の考えが正しいのか疑う気持ちもあり、研究や検証された資料を調べてみました。

米国産科婦人科学会(ACOG, 2020, 委員会意見第804号)は、合併症のない妊婦に週150分以上の中強度の有酸素運動を推奨し、妊娠前に運動していなかった人にも妊娠中に始めるよう勧めるべきだと明記しています。運動する妊婦では、妊娠糖尿病、帝王切開、産後の回復期間が減る傾向が見られ、産後うつの予防にも重要な要素になりうるとまとめています。

世界保健機関(WHO, 2020)の身体活動ガイドラインは、初めて妊娠中・産後の女性を独立した項目として扱い、同じ週150分の基準を示しました。定期的な身体活動が血圧と血糖の管理、過度な体重増加の抑制、分娩合併症や産後うつのリスク低下に役立つとし、筋力運動とストレッチを組み合わせつつ、座っている時間を減らすよう勧めています。

骨盤底筋については、コクラン(Cochrane, 2020, Woodley ほか)のシステマティック・レビューが、妊娠中に始めた骨盤底筋トレーニングが妊娠後期と産後の尿失禁のリスクを減らすのに役立つ可能性があるとまとめています。出産後の女性の約3分の1が尿失禁を経験することを考えると、妊娠中に骨盤底筋を意識することは選択ではなく必須です。

妊娠中のヨガに限った研究も積み重なっています。複数のシステマティック・レビューを総合した概観研究(Villar-Alises ほか, 2023)は、マタニティヨガが妊娠中の不安・抑うつ・ストレス症状を減らすうえで対照群より効果的だったと報告し、直近5年間のランダム化比較試験だけを集めたメタ分析(Int J Yoga, 2025)でも、マタニティヨガの不安軽減効果が確認されています。

まとめると、妊娠中の運動は血糖や体重、骨盤底筋、心の健康にわたって役立つ可能性があり、出産と回復に備えるいちばん確かな投資です。ただし、これらの研究はすべて**「体に合わせて調整された」運動**を前提としています。

ここからが、マンツーマンの話です。

妊娠中の体は毎週変わる

まず、関節がゆるみます。 リラキシンというホルモンが靭帯をやわらかくし、出産に備えます。そのため妊娠中はふだんより柔らかくなったように感じますが、これはよいサインではありません。靭帯が支えきれない範囲まで関節が動くと、骨盤や仙腸関節に痛みが出ます。

次に、重心が前へ移ります。 お腹が大きくなるにつれて腰が前に反り、骨盤が前に傾いて腰の下のほうに負担がかかります。呼吸のスペースも狭くなります。子宮が上がってくると横隔膜が押されて呼吸が浅くなるため、脇腹や背中側に息を入れる方法を身につける必要があります。骨盤底筋にも負荷がかかります。産後の尿失禁や回復の速さを左右する筋肉なので、妊娠中から意識してケアすることが大切です。

さらに、心臓と血管も変わります。 血液量が増えて安静時の心拍数が上がり、妊娠中期以降は長く仰向けに寝ると大きな血管が圧迫されて、めまいが起きることがあります。WHO(2020)とACOG(2020)がともに、妊娠初期以降は仰向けの姿勢での運動を避けるよう勧めているのはこのためです。こうした変化は初期・中期・後期で異なり、同じ週数でも人によって違います。

グループのマタニティヨガの限界

グループのマタニティヨガは「妊婦の平均」に合わせます。妊婦さんの体は週数によって変わりますが、講師が毎回、会員一人ひとりの週数に応じた変化を確認するのは難しいこともあります。どうしてもレッスン中は「きつければ休みながらやりましょう」で締めくくることになります。肝心のゆるんだ関節の痛みはその場では気づきにくく、翌日骨盤が痛くなってはじめて無理をしたとわかるのです。

もうひとつ、骨盤底筋のように目に見えないインナーマッスルは、グループレッスンよりマンツーマンのほうが、妊婦さんが運動として身につけやすいものです。コクラン(2020)が効果を確認した骨盤底筋トレーニングも、「正しい収縮のしかたを教わった場合」が前提になっています。

マンツーマンのマタニティヨガで変わること

  • 週数と状態を毎回確認します。 その日の体調、痛む部位、主治医からの注意事項を聞いて、その日のレッスン内容を決めます。
  • 状態や週数に応じて動きを制限します。 うつ伏せの姿勢、深いねじり、お腹への圧迫、妊娠初期以降に長く仰向けになる姿勢などは、週数に応じて外します。
  • 骨盤底筋と呼吸をつなげる方法を学べます。 息を吐くときに骨盤底筋がどう動くかを意識することが、マタニティの練習の核心です。

  • ポーズばかりに気をとられると見落としがちな、背中と脇腹への呼吸を学びます。 押された横隔膜の代わりに、肋骨の横と後ろへ息を入れる方法を身につけます。
  • 骨盤を安定させる動きを中心に組み立てます。 ゆるんだ関節を伸ばすのではなく、支える筋肉をつくっていきます。
  • 筋力を安定して高めていきます。 出産という最後の大仕事に向けて、下半身と呼吸の持久力を週数に合わせて上げていきます。無理のない強度を毎回見つけることが講師の仕事です。

出産後は、開いた腹直筋と弱った骨盤底筋が回復できるよう、運動の方向性と順序を決めます。産後の体へのアプローチは講師によって違いがあります。だからこそ、いろいろな講師と運動してみて、産後に運動で体を回復させるための時間と努力を惜しまないでください。

Atelier, Mouv のアプローチ

ソウル・瑞草の Atelier, Mouv では、これまで多くの妊娠中・産後の会員さんと向き合ってきました。マンツーマンからグループまで行うなかで、感じたことがたくさんあります。特に運動としてヨガを選ばれた方には、体が硬くなって動きにくく感じることがつらくて来られる方が多くいました。そのため、ストレッチとヨガで呼吸とスペースをつくって心身を落ち着かせ、ピラティスで骨盤まわりを安定させる流れのプログラムを組み立てます。外からの刺激に敏感になりやすい時期でもあるので、プライベートな空間で、体が変わっていく時期を心地よく運動していただけます。

Atelier, Mouv では、初回は動きのカウンセリングから始め、会員さんのコンディションに合わせてゆっくりと運動とストレッチを進めます。妊娠中の運動は、主治医と相談してから始めてください。主治医からの注意事項があれば、そのままレッスンの構成に反映します。

おわりに

妊娠中の体力は、出産当日とその後の2年を左右します。そしてその効果は「どれだけたくさん」ではなく「自分の体に合わせて」から生まれます。毎週変わる体を毎週確かめながら一緒に進むこと。それが、マタニティヨガをマンツーマンで行うべき理由です。

参考文献

NAVERブログの原文コラム一覧へ